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東京高等裁判所 昭和51年(う)693号 判決 1977年5月30日

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人福島貞男の負担とする。

理由

<前略>

第一部被告人福島貞男関係<略>

第二部被告人稲垣彰晴関係

第一、控訴趣意第二、一は訴訟手続の法令違反を主張し、原判決は、被告人にかかる原判示第三事実に対応する証拠として、司法警察員金山忠治、同石山喬各作成の写真撮影報告書、警視庁科学検査所長作成の「鑑定結果回答について」と題する書面、シヨツピングバツグ一個を挙示しているけれども、本件現行犯逮捕に伴う火炎びん入りシヨツピングバツグの捜索差押は、現行犯逮捕に先立ち、被告人らの承諾なしに、実力を行使して行なわれた違法な職務質問および所持品検査の結果なされた違法なものであり、かかる違法な手続により押収された証拠および当該証拠に基づいて作成された証拠は、違法収集証拠として排除すべきであるというのである。

よつて、記録および証拠物を調査し、当審における事実取調の結果をも加えて検討する。まず、被告人および原審共同被告人柳友恵(当時伊勢友恵)が、昭和四六年一一月一九日午後九時三五分ころ帝都高速度交通営団東銀座駅中央口附近において、警視庁築地警察署勤務巡査部長佐藤修、同萩原清造により兇器準備集合罪の嫌疑で現行犯逮捕されたこと、その際右両名の近くにあつた火炎びん七本の入つた本件シヨツピングバツグ等が押収されたこと、所論指摘の証拠書類は右押収物件を写真撮影し、あるいは鑑定した結果作成されたものであることは、争いがないところであり、関係証拠によりこれを認めることができる。

さらに、原審証人佐藤修、同阿部和夫の各供述によると、佐藤、萩原両巡査部長は、本件当日中核派を中心とする諸派が都心部を中心として警官隊に対する実力闘争を企て、とくに火炎びんを持ち込むとの情報があつたので、二人一組となつて、情報収集と検挙のため地下鉄東銀座駅を中心として巡回中、同日午後九時半ごろ同駅中央改礼口附近において、二五歳位の男性(あとで被告人と判明。)と二〇歳位の女性(あとで柳友恵と判明。)が公衆電話器の台の近くに立つており、右電話台の下にはシヨツピングバツグ二個が置いてあり、女性が自分の身体から約三〇センチメートル離れた右バツグをのぞいたりしているので、佐藤巡査部長が電話をかけるふりをして近づき、そのバツグをのぞいて見たところ、一つのバツグの上に載つているタオルの下にビールびんの肩が見えたので、両巡査部長はこれを火炎びんではないかと考え、職務質問をすべく、右男女に警察手帳を示して身分を告げ、「この品物はあなたらの物ですか。」と尋ねると、男性は「そんなものは知らない。」と答え、女性は無言であり、そこで佐藤巡査部長は、「これは火災びんじやないか。」と言いながら、前記タオルをはねのけて見ると、バツグの中に火炎びん三本が入つていたこと、萩原巡査部長がもう一個のバツグを調べると、新聞紙の下に火災びん四本が入つていたこと、そこで、佐藤巡査部長は、「こういう危険な物を持つて歩くと処罰される。これが自分の足許にあつて、知らないということはないだろう。」と聞くと、男女とも「知らない。」と答え、さらに「あんた達の物でなければ、住所と名前は言えるだろう。」と尋ねたが、「必要ない。」といつて住所、氏名を明らかにせず、その間萩原巡査部長が、駅員から「あの人達の来る前に荷物はなかつたし、あの人達は荷物から離れないでいる。」旨回答を得たので、押送車を手配し、車両の到着を待つて、右男女を兇器準備集合罪の現行犯人として逮捕し、火炎びん等を押収したことが認められる。火炎びんそれ自体が危険な物であるうえに、当夜都心部においてそれが使用される危険が高い情況にあつたこと、本件火炎びんは、シヨツピングバツグの上からのぞくだけで、びんの肩の部分が見え、その上に載つているタオルや新聞紙を僅かに動かすだけで、それが火災びんであることが判明する状態のものであつたことなどに照らすと、両巡査部長の前記職務質問は、火炎びんを発見する手続を含めて、適法な限界内にあつたものと認められる。そして、右職務質問に続く現行犯逮捕ならびにその際における火炎びんとシヨツピングバツグの押収の手続にも違法の点は見当らない。柳友恵の原審共同被告人としての、および当審証人としての各供述、被告人の原審および当審公判廷における各供述のうち右認定に反する部分は、原判決挙示のその他の関係証拠と対比して措信することができない。

してみれば、所論指摘の証拠はいずれも違法に収集された証拠とは認められず、その証拠能力に疑いがあるとは考えられないから、有罪の証拠から排除されるべきものではない。原判決に所論の訴訟手続の法令違背はなく、論旨は理由がない。

第二  <略>

(綿引紳郎 石橋浩二 藤野豊)

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